ツール・ド・フランス2026 Stage 202026年7月26日文: Grand Tour Hub 管理人

覇者3人の逃げを水玉が制し、黄色と白は肩を抱き合ってゴールへ

ル・ブール・ドワザン → アルプ・デュエズ 170.9km(山岳。スタート直後から超級クロワ・ド・フェール峠、1級テレグラフ峠、今大会最高地点の超級ガリビエ峠を越え、ツール初の登りとなる超級サレンヌ峠から裏口経由でアルプ・デュエズへ。獲得標高5,450mのクイーンステージ)

同じアルプ・デュエズに、今度は裏口から登り直す2日目。獲得標高5,450mのクイーンステージを動かしたのは、逃げに乗り込んだ3人のグランツール覇者でした。山岳賞を確定させたカラパスが、独走から2度の落車に沈んだクスを交わして今大会2勝目。26秒届かず悔しさを露わにするエヴェネプールの後ろで、マイヨ・ジョーヌは一日中チームメイトのために牽き続け、2人は肩を抱き合ってゴールに入ってきます。黄・緑・水玉・白——パリを残して、4色のジャージの持ち主がすべて事実上決まった一日でした。

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スタート9.6kmから超級クロワ・ド・フェール峠(24.1km・平均5.2%)へ。モーリエンヌ谷(中間スプリント)まで下って1級テレグラフ峠(11.9km・7.1%)、そのまま今大会最高地点の超級ガリビエ峠(17.7km・6.9%・標高2,642m)へ登り継ぎ、長い下りの先にツール初の登りとなる超級サレンヌ峠(12.8km・7.3%)。最後はカテゴリーなしの4kmを登ってアルプ・デュエズのゴールへ——170.9kmに獲得標高5,450mを詰め込んだクイーンステージ 超級山岳 クロワ・ド・フェール峠34km地点 中間スプリント67km地点 1級山岳 テレグラフ峠88km地点 超級山岳 ガリビエ峠111km地点 超級山岳 サレンヌ峠157km地点

📊 今日のデータ

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スタートにわか雨 31.4℃・風2.2m/s
ゴール曇り 20.2℃・風6.1m/s
逃げ15人 → 逃げ切り 🎉
決着独走(リチャル・カラパス)
総合タデイ・ポガチャルが首位堅持(+386秒)
完走158 / 160人
敢闘賞セップ・クス(#17・Visma–Lease a Bike)

スタート9.6kmで超級——逃げには覇者が3人いた

この日は旗が振られてわずか9.6kmで、道が超級クロワ・ド・フェール峠(24.1km・平均5.2%)に突き当たります。山でステージを狙うチャンスは今日が最後——アタック合戦は峠の登りまでもつれ、先行した6人が吸収された後に、14人の強力な逃げがようやく固まりました。その顔ぶれが豪華です。ヴィスマ・リースアバイクは前日と同じくジョーゲンソアルミライピガンゾーの4枚看板。水玉ジャージのカラパにはヒーリが付き、今大会まだ勝ち星のないネットカンパニー・INEOSはアレンスマフォの2枚。山岳賞に望みをつなぐヴァランタン・パレパントに、トビアス・ヨハンネセアユも乗り込みました。そして特筆すべきは、この逃げにグランツールの総合優勝経験者が3人もいたことです。2019年ジロを制したカラパス、2022年ジロのヒンドレ、2023年ブエルタのクス。しかもヒンドレーは総合2位エヴェネプーの、リッチテッは総合4位セクサの「サテライト」として、後ろの主役のためにも走る二重任務です。峠の中腹では、もうひとつの決着が動きました。マイヨ・ヴェーピーダスが超級の登りで単騎、集団から飛び出したのです。狙いは下りきった66.5km地点の中間スプリンただひとつ。下りで逃げに追いつき、誰にも争われずに25点を回収して、ポイント賞は事実上の決着となりました。あとはパリのゴールにたどり着くだけ——山を越えてでも点を摘みにいくスプリンタの執念が、4色のジャージの1枚目を確定させたのです。カラパスも頂上3.5km手前から抜け出して超級の20点を先取り。朝の時点で首位カラパス91点、2位はマイヨ・ジョー90点、3位パレパントル84点という大接戦の山岳賞レースで、最初の主導権を握りました。

🔰 初心者向けメモ: クイーンステージ——その大会でいちばん過酷な一日

グランツールでは、最も獲得標高が大きく、総合争いの脚が試される山岳ステージを「クイーンステージ」と呼びます。今年のツールはこの第20ステージがそれ——170.9kmに超級3つと1級1つ、獲得標高5,450mを詰め込み、しかも最終日前日という異例の遅さに置かれました。獲得標高5,450mとは、登った高さの合計が、海抜0mから富士山の頂上(3,776m)まで登り切って、さらに1,700m近く登り足す量だということ。それを一日で、しかも3週目の脚で、です。2018年大会の総合優勝者で、現在は監督としてレースを追うゲラント・トーマスは「数字の上では、史上最難のツールのステージかもしれない」と評しています。3週間の疲労が積み重なった最後の土曜日に最難関を置く——「最後までサスペンスを」と繰り返した主催者のコース設計の、これが本命でした。

出典:Cyclingnews: As it happened - Late crash drama on stage 20 of the Tour de France

パリまで280km——スプリンターの涙と、総合12位の悲運

同じ峠が、去る者も選びました。ジェイコ・アルウラーのスプリンター、アッカーマです。第18ステージから山で苦しみ続け、前日のアルプ・デュエの登りではチームカーと接触して膝もひねっていた32歳は、クロワ・ド・フェールの登りの途中、スタートから約20km地点で自転車を降りました。パリまで、あと280km。チームバスから出てきた彼の目には涙がありました。「脚がもう言うことを聞かなかった。この2日間はずっと完全に限界だったんだ」「毎朝、良くなっていることを願った。でも、そうはならなかった。パリにたどり着くことが大きな目標だったのに、届かなかった。深く落ち込んでいるよ」。今大会のスプリント争いを何度も沸かせた男の3週間は、最後の山塊の入り口で終わりました。峠の下りでは、さらに悲運が続きます。総合12位につけていたスダル・クイックステップのファンウィルデが落車し、そのままレースを去ったのです。3週間かけて積み上げた順位を、最後の週末の下りが一瞬で奪っていきました。ツールの完走は、それ自体がひとつの勲章です。この日、その勲章まであと一日半のところで2人が消えました。

出典:radsport-news.com: 280 Kilometer vor Paris: Ackermann gibt tief enttäuscht auf

ガリビエで水玉が確定し、黄色いジャージはアシストになった

1級テレグラフ峠(11.9km・7.1%)で逃げは10人に絞られ、ヒーリの牽引から抜け出したカラパが1級の10点を先取りします。山岳賞のライバル、ヴァランタン・パレパントはこの峠で力尽きて後退し、続くガリビの登りでメイン集団に吸収されました——争いは事実上、ここで終わりです。今大会最高地点である標高2,642mの超級ガリビエ峠(17.7km・6.9%)では、頂上4.5km手前でカラパスがまたも仕掛けます。クスたちに一度は追いつかれながらも先頭で峠を越え、最高地点の通過者に贈られる特別賞スーベニール・アンリ・デグランジュごと20点を回収。持ち点は141点——残る山を全部足しても2位以下は届かない数字となり、2024年に続く2度目の水玉ジャージが、この頂上で決まりました。同じガリビエの頂上付近、後ろのメイン集団では見慣れない光景が始まっていました。マイヨ・ジョーヌのポガチャが、自ら先頭に立って風を受け始めたのです。守るのは自分の順位ではなく、総合3位につけるチームメイトのデルト。王者のペースで集団は絞られ、峠を越える頃には総合上位の5人だけになりました。そしてサレンヌ峠に入ると、19歳のセクサを擁するデカトロン・CMA CGMが総攻撃を開始します。プロドが牽き、逃げから降りてきたリッチテッが引き継ぎ、24秒差の表彰台を奪いにきました。しかしセクサス本人が先頭に立った直後、逆にデルトロが加速します。ついて行けたのはポガチャルとエヴェネプーだけ。賭けに出た側が、突き放されました。「できる限り深くまで行きたかった。でも限界の瞬間が来て、僕は潰れた」とセクサスは言います。「チームでは『失うものは何もない』と話していた。僕にとっては3位かゼロか——そして今日はゼロだった」。それでもツールデビューの19歳が守り抜いた総合4位です。「数日たって少し空気が入れば、誇りが湧いてくると思う」。

🔰 初心者向けメモ: 黄色いジャージがアシストに回る日

マイヨ・ジョーヌは普通、チームメイト全員に守られる存在です。しかし総合リードが十分に大きく、自分の優勝がほぼ確定した最終盤には、その関係が逆転することがあります。この日のポガチャルは6分半のリードを持ち、逆にチームメイトのデルトロは24秒差で表彰台と白ジャージを争っていました。だから王者は自分のステージ勝利への色気を捨て、山ふたつ分を先頭で牽き続けたのです。「ステージは勝てなくても、今日はチームスピリットが勝った」——レース後の王者の総括に、個人が語られがちなロードレースがどこまでもチームスポーツである、という真実が詰まっています。

出典:Cyclingnews: 'I'm impatient to get there' – Tadej Pogačar closes in on fifth overall victoryCyclingnews: 'I cracked' - Paul Seixas goes all-in for the Tour de France podium

独走のクスに、サレンヌの下りが牙をむいた

先頭では、超級サレンヌ峠(12.8km・7.3%)の登りに4人が突入していました。カラパヒンドレ、そして下りで追いついたアユ。互いのアタックで貯金を減らす牽制の末、残り23.5km、動いたのはクスでした。一気にヒンドレーを引き離して単独先頭へ。「途中でセップにアタックされて、6秒、7秒——本当にギリギリだった」とカラパスが振り返る猛追も振り切り、頂上を約20秒先頭で越えます。2021年のアンドラ以来、5年ぶり2度目のツール勝利、そして前日4位に泣いたアルプ・デュエズへの雪辱まで、残りは下って登るだけの14.4kmでした。しかし、その下りが牙をむきます。残り7.1km、暗いトンネルを抜けた出口で縁石に乗り上げて転倒。すぐに走り出したものの、約2km先の左コーナーで再びバランスを失い、車体ごと山肌の外へ——転落防止ネットが、間一髪で彼を受け止めました。「下りで彼に何が起きたのか分からない。気づいたら、地面に倒れている彼の横を通り過ぎていた」とカラパス。腕と脚の擦り傷を押してクスは再び追いましたが、差は開く一方でした。それでも3位でゴールし、審査員はこの日の敢闘を彼に贈っています。ただ、災難はゴール後も終わりませんでした。レース審判団が、規定の区間外にボトル等を捨てた同日2件の違反でクスに罰金計1,500スイスフラン、UCIポイントの剥奪、そして総合タイムへの1分加算を科したのです。2週目には前歯のクラウンまで失っている彼にとって、踏んだり蹴ったりの締めくくり。ペナルティ後も総合13位という順位が変わらなかったのが、せめてもの救いでした。

🔰 初心者向けメモ: ボトルを捨てていいのは「回収区間」だけ

選手が空のボトルや補給食の包みを沿道に投げ捨てる——昔の映像では当たり前だった光景は、いまのUCI(国際自転車競技連合)の規則では明確な違反です。コース上には数カ所のゴミ捨て区間が設けられ、廃棄はそこで行うか、チームスタッフに手渡すのが原則。観客に向けたボトル投げも対象です。違反には罰金に加えてポイントやタイムのペナルティが科され、同じ大会で繰り返すごとに重くなります。クスの場合は同じ日の2件目だったため、総合タイム1分加算にまで達しました。山の環境とレースの公正を守るための、現代ロードレースの約束事です。

出典:Cyclingnews: Sepp Kuss misses out on stage victory after crashing twice on descentCyclingnews: Sepp Kuss hit with big fine, time loss and points deduction for littering

最後の4km——「永遠」の登りと26秒、そして腕を組んだ2人

サレンヌの下りを終えたカラパに残されたのは、カテゴリーのつかない短い登り4km。前日に頂上まで争ったばかりの道です。「あの登りではとてつもなく苦しんだ。知り尽くしていたはずなのに、永遠に感じられたよ」。それでも彼には確信がありました。「今日の第一目標は山岳ジャージ。でもガリビエを越えて4人になってからは、うまく回り出した。前日とはまったく違う戦い方——自分のペースを30分刻み続ければいい、と分かっていたんだ」。フラム・ルージュを25秒のリードで通過し、水玉ジャージのまま両手を突き上げます。第18ステージに続く今大会2勝目。4月に嚢胞の手術で3週間自転車を降り、目標だったジロを諦めた33歳は、こう総括しました。「僕らは第3週にすべてを賭けた。バルセロナを出発したときの目標を、すべて達成できたと思う」。その26秒後ろでゴールに飛び込んだのは、最後の直線で傷だらけのを抜き去ったエヴェネプーでした。残り3km、逃げから降りてきたヒンドレの牽引を受けて単独で発進——「総合3位を争う2人の状況を壊したくなかったから、最後の3kmまで待ったんだ」——それでも届かず、ラインを越えた瞬間、悔しさを隠しませんでした。「勝者のメンタリティがあるからね、少しの悔しさはある。30分もすれば消えるけど。あの登りが、あと2km長かったらね」。それでも確定させた総合2位は、ベルギー人としては1981年のファンインペ以来、45年ぶりの高さです。「ツールで2位というのは、誰にでも言えることではない。近年それは決まった2人だけのものだった。いまは別の誰かがそこにいる。その誰かに自分がなれたことが、本当にうれしいんだ」。そして1分5秒後、この日最後の主役たちが現れます。マイヨ・ジョーヌと白ジャージ——ポガチャデルトが肩を抱き合い、頭を寄せ合ってラインを越えたのです。そして2人そろって、人差し指をヘルメットの横に立てました。デルトロのトレードマーク、雄牛の角のポーズです。最後の急坂で一度千切れかけたデルトロを、王者は速度を緩めて待ちました。ゴール直前に掛けた言葉は「ペダルを回すのを忘れるなよ」。体調不良を抱えたまま第3週を走り抜いた22歳は、メキシコ人として史上初のツール総合表彰台と、新人賞の白ジャージを確定させました。「病気の状態で表彰台に立つのは簡単じゃない。だから本当にうれしいし、これをしてくれたチームに感謝している。いまはただ、呆然としているよ」。開幕2日目、バルセロナのゴールでこの若者に勝利を贈った王者は、最後の山では表彰台とジャージを贈り届けました。「彼も表彰台に立つことが、僕にとってどれほど大きな意味を持つか、言葉では説明できないほどなんだ」。総合の差は6分26秒のまま、あすはパリへ。ポガチャルは史上5人目となる5度目の総合優勝に、あと90kmです。

出典:Cyclingnews: 'We gambled it all on the third week' - Richard Carapaz fights back from tough summerCyclingnews: 'Proof that the disbelief in me is unfounded' – Remco Evenepoel hits back at criticsCyclingnews: 'Not easy to finish on the podium being ill' - Isaac del Toro set to bring home third placecyclesports.jp: 第20ステージはカラパスが優勝し、ポガチャルがマイヨ・ジョーヌを守ってパリへFrance 24: 'Amazing' Pogacar-Del Toro friendship lights up Tour de France

今日の寄り道

自転車をちょっと離れて、ステージが駆け抜けた土地の話。

伝統工芸オピネル——モーリエンヌ谷が生んだ国民的ナイフ

クロワ・ド・フェールを下ったコースが走り抜けたモーリエンヌ谷の中心の町、サン・ジャン・ド・モーリエンヌは、フランスの国民的フォールディングナイフ「オピネル」の故郷です。1890年、鍛冶職人のジョゼフ・オピネルがこの地で作り始めた木柄のナイフは、130年あまり経った今も同じ町に本社を置き、年間およそ1,500万本を売り上げます。農作業からピクニックのチーズ切りまで、フランスの暮らしに溶け込んだ一本。選手たちが駆け抜けた谷は、ナイフを削り続けてきた谷でもあります。

食文化峠の牛が育てるハードチーズ、ボーフォール

この日のコースが越えたモーリエンヌ谷は、サヴォワ地方を代表するハードチーズ「ボーフォール」の生産地のひとつです。グリュイエール系の生乳チーズで、産地はボーフォルタン、タランテーズ、そしてモーリエンヌの山あいに限られます。夏、牛たちは峠の高地放牧地へ移り、選手たちが苦しんだような斜面の草を食んでミルクを蓄えます。中間スプリントの喧騒のかたわらで熟成庫に眠る大きな車輪型のチーズは、この谷のもうひとつの誇りです。

写真: Wikimedia Commons(フリーライセンス)

この日の公式ハイライト

Velon公式 第20ステージ ハイライト(7分22秒)
J SPORTS公式【辻啓の現地レポート】第20ステージ

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この記事を書いた人

Grand Tour Hub 管理人

ロードレースの面白さを初心者目線で伝えるファンサイトの管理人。いちばん好きなのは、ゴール直前までもがいてスプリンターを発射させたアシストが、仲間の勝利を確信して、自分はまだゴールの手前なのにガッツポーズをする瞬間です。

※ 観戦記は管理人による独自の執筆コンテンツです。選手タイプの解説はタイプ図鑑もどうぞ。