ツール・ド・フランス2026 Stage 182026年7月24日文: Grand Tour Hub 管理人

4つの峠は水玉ジャージ、最後の頂はエクアドルの機関車——差は45秒

ヴォワロン → オルシエール・メルレット 185.2km(山岳。序盤の1級アンジャンでヴェルコールの高原へ、中盤の2級モンテナールからはエクラン山塊の高台を縫って進む。締めはツール6度目の登場となる1級オルシエール・メルレット——公式の登坂距離は7.1km・平均6.7%だが、実質は15km以上登り続ける)

アルプスの山頂フィニッシュ3連戦の初日は、55年前にオカニャがメルクスを打ち破った伝説の山、オルシエール・メルレット。水玉ジャージのパレパントルが4つの峠をすべて先頭で越えて山岳賞首位のポガチャルに1点差まで迫り、その4つすべてで2番手に付けていたカラパスが、最後の登りの残り3.5kmで決定的な一撃を放ちました。45秒差の独走勝利——山岳ステージで3度目となる2人の直接対決に、ひとまずの決着です。緑のピーダスンは山越えの逃げで25点を積み増し、そのはるか後方では、UAEチーム・エミレーツに広がる病がマクナルティをツールから連れ去りました。

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序盤の1級アンジャン(11.4km・平均5.4%)でヴェルコールの高原に登り、グルノーブルの谷へ急降下。2級モンテナール(9.7km・5%)から先は平坦のほとんどない高台の道が続き、ナポレオン街道の町コルプス(中間スプリント)と2つの3級を経て、最後は1級オルシエール・メルレットの山頂へ——公式7.1km・平均6.7%、実質は15km以上の登りで締める185.2km 1級山岳 アンジャン37km地点 2級山岳 コート・ド・モンテナール92km地点 3級山岳 コート・デ・テラス113km地点 中間スプリント129km地点 3級山岳 サン・レジェ・レ・メレーズ166km地点 1級山岳 オルシエール・メルレットゴール地点

📊 今日のデータ

シーズン集計を見る →
スタート晴れ 28.9℃・風4.7m/s
ゴール晴れ 23.6℃・風4.1m/s
逃げ40人 → 逃げ切り 🎉
決着独走(リチャル・カラパス)
総合タデイ・ポガチャルが首位堅持(+272秒)
完走162 / 163人
敢闘賞リチャル・カラパス(#41・EF Education–EasyPost)

アルプス初日、逃げは65km決まらなかった

この日から、アルプ・デュエにゴールする2連戦を含む山頂フィニッシ3連戦。総合勢が脚を溜めたいこの初日は、逃げたい男たちにとって残り少ない大チャンスです。スタート直後からアタック合戦が始まり、今大会に何度も逃げに乗ってきた常連ヴェストロフーが、この日も飛び出しては引き戻されるのを繰り返します。ただし、誰でも行けるわけではありません——集団は飛び出した顔ぶれを見て、総合争いに関係のない選手だけを行かせるのです。1級アンジャンの長い登り(11.4km・平均5.4%)でもこの「入場審査」は終わらず、頂上では水玉ジャージのパレパントカラパを抑えて10点を先取り。集団がようやく手を緩めたのは、65kmも走ってからでした。固まった逃げはおよそ40人——ヒーリシモンマシュー、2019年の総合優勝者ベルナ、さらにマイヨ・ヴェーピーダスまで乗り込む大所帯です。2級モンテナールの登りで逃げ自体が二つに割れ、パレパントルとカラパスを含む14人が先行。メイン集団は追う素振りも見せず、この日の総合勢は4分半後ろでゴールする「休戦」を選びました。

🔰 初心者向けメモ: 逃げに乗るには「総合に無害」の証明がいる

マイヨ・ジョーヌのチームは、総合順位を脅かす選手が逃げに入ることを許しません。危険人物が乗った逃げは徹底的に追われ、まず成功しないのです。だから逃げでステージを狙う選手は、山岳ステージでわざとペースを緩めるなどして、あらかじめ総合タイムを大きく失っておきます。「総合には興味がありません」という証明書を持って、関所を通るわけです。この日勝ったカラパスも「逃げに入りやすくするため、意図的にタイムを失った」と明かしています。

出典:Cyclingnews: 'I couldn't stop thinking about this stage' - Richard Carapaz

緑のジャージは、山の中でも点を摘む

前日、フィリプセに7点差まで詰め寄られたマイヨ・ヴェールのピーダスは、宣言どおり攻め続けました。本来ならスプリンタが集団後方で脚を休める山岳ステージで、約40人の逃げに自ら乗り込んだのです。1級アンジャンでは山岳ポイント5番手(2点)で越える登坂を見せ、峠をいくつも生き延びて、狙いはただひとつ——残り56km地点、ナポレオン街道の町コルプスに置かれた中間スプリンです。チームメイトのヴァチェが先導し、ピーダスンは25点を無風で回収。そこで「本日の営業」を終えて後方へ下がり、ゴールは22分遅れでした。ポイント賞は477対445。集団に留まったフィリプセンはこの日1点も取れず、一日で7点差が32点差に開き直しました。「マイヨ・ヴェールはパリまで毎日続く戦いになる」——前日の自らの言葉を、緑のジャージは山の中で実行し続けています。

出典:Cyclingnews: Richard Carapaz wins Stage 18 at Orcières-Merlette

4つの峠を全部先頭で——水玉は王者まで1点に迫った

パレパントカラパの山岳ポイントの奪い合いは、いまやこのツールの隠れた主戦場です。ヴォージュの第14ステージでは峠のたびにポイントを取り合い、第15ステージでも序盤のコート・デ・ルースでパレパントルが先着。山岳ステージでの直接対決は、この日が3回目でした(前日の「平坦」ステージでも、2人はちゃっかり4級の1点を分け合っています)。そしてこの日のパレパントルは完璧でした。アンジャンで10点、モンテナールで5点、テラスで2点、サン・レジェ・レ・メレーズで2点——カテゴリー山岳4つすべてを先頭で越え、そのすべてでカラパスが2番手。朝の時点の山岳賞は首位ポガチャ70点に対しパレパントル46点でしたが、この4つの峠の19点と4位ゴールの4点で69点まで積み上げ、首位との差はわずか1点になりました。この日一度もポイント争いに加わっていないマイヨ・ジョーの持ち点は、70のまま動きません。その動かない70点に向かって、逃げの2人が峠を越えるたびに点を積み上げて迫っていく——けれど、山頂フィニッシュの最後の10点だけは、駆け引きではなく脚が決めるのです。

🔰 初心者向けメモ: 水玉ジャージを「2位」が着る日

選手が同時に着られるリーダージャージは1枚だけです。総合首位のポガチャルは山岳賞でも首位ですが、マイヨ・ジョーヌが最優先なので、山岳賞の水玉ジャージ(マイヨ・ア・ポワ)はランキング2位のパレパントルが「代理」で着てレースを走ります。順位表の首位と、コースで水玉を着ている選手が別人——中継で時々起きるこのねじれは、ジャージの優先順位という決まりごとのせいなのです。

出典:Cyclingnews: Richard Carapaz wins Stage 18 at Orcières-Merlette

オカニャの山で、機関車はひとりになった

オルシエール・メルレットは、ツールに6度目の登場となる曰く付きの山です。初登場の1971年、オカニャが伝説の独走でメルクスをこの日だけで8分42秒も打ち破ってマイヨ・ジョーヌを奪い、直近の2020年はログリッチが小集団の争いを制して、区間2位の若きポガチャが初めて白ジャージを着ました。そして過去5回、この山頂を制した選手がその年のツールを勝ったことは一度もありません。2026年にこの頂を獲ったのは、「ラ・ロコモトーラ(機関車)」の異名を持つエクアドルの元ジロ覇者カラパでした。残り47kmのジョーゲンソの仕掛けで先頭は絞られ、最終登坂には6人で突入。登りに入るとジョーゲンソンが繰り返し飛び出しますが、いずれも封じられます。一方、山岳賞を争うパレパントとカラパスは、互いの動きだけを警戒して自分からは仕掛けません。残り4kmでパレパントルが様子見のアタックを打つと、カラパスは間髪入れずに本命の一撃をかぶせます。トビアス・ヨハンネセガルシが千切れ、シュミッとジョーゲンソンが辛うじて戻ったところで、残り3.5km、2発目。今度は誰も反応できませんでした。3km地点で20秒、ゴールでは45秒。2位に第13ステージ覇者のシュミット、3位にはこの日いちばん多くアタックを重ねたジョーゲンソン、そしてパレパントルは1分14秒遅れの4位——山頂の10点はカラパスのものとなり、山岳賞は70対69対63の三つ巴のまま最後の2日間へ向かいます。ツールでは、この山からほど近いスーペルデヴォリュイを制した2024年以来、2年ぶり2勝目です。「ツール期間中、このステージのことを考え続けてきた。自分に合っていると確信していたし、今朝は脚があると感じたから、本気で獲りに行くと決めたんだ」。今年の最大目標だったジロを嚢胞の手術で断念した33歳は、キャリア25勝目をこう締めくくりました。「僕らは何を獲りに来たのか分かっていた。この数週間ずっと望んでいたことを、ついに実現できた」。攻め続けた一日に、審査員はこの日の敢闘も彼に贈っています。

出典:Cyclingnews: Richard Carapaz wins Stage 18 at Orcières-MerletteCyclingnews: 'I couldn't stop thinking about this stage' - Richard Carapaz

回収車の前を、アメリカ人はひとりで走っていた

レースのいちばん後ろでは、まったく別の戦いが続いていました。ポガチャの山岳アシストであるマクナルテが、わずか25km地点でスプリンターたちと共に集団から千切れたのです。本来は登れる男の異変——のどの不調に加え、2日前にはタイムトライアルの試走中に車にはねられてもいました。そこから彼は、レース最後尾を走る大会車両「ブルームワゴン(回収車)」の目の前で一日の大半をひとり走り続け、ゴールまで残り約50kmとなったところでついにバイクを降りました。その報せを残る選手たちへ伝えたチームカーの無線は、最後にこう付け加えています。「さあ、君たちはまだやれる」。チームのスポーツマネージャーは「アダの問題とは別だ。ブランドンは熱もないし、コロナでもない。検査はすべて陰性。ただ、のどの症状がひどい」と説明しました。胃腸炎から回復途上のイェーツは28分55秒遅れ、のどの不調を抱えるウェレンは最終走者としてたったひとりで登りを終えました。この日の制限時間は勝者から45分17秒——ウェレンスのゴールは43分02秒遅れ、残されていた猶予は2分あまりでした。「グルペッではたくさん助けてもらった。でも登りはずっとひとりのタイムトライアルだった。普段の半分のワット数しか出ない。いつもなら倍の速さで登れるのに」と彼は言います。「チームに病気が広がっているのは明らかだと思う。幸いタデイは大丈夫だ。そのままであってほしい」。ゴール地点の総合勢グループに残ったUAEの選手は、ポガチャルとデルトの2人だけ。それでも王者は会見で前を向きました。「ブランドンが今日あんなに具合が悪くて完走できなかったのは、本当に悲しい。この先の2日間、彼がいないのは痛手だ。でも3週目は、どのチームも苦しんでいる。今日のようなステージでも、そこらじゅうに倒れかけの選手がいるんだ。僕らは戦い続けるし、やれると信じているよ」。なお、この朝にはもう一人、前日の落車で左手首を骨折していたパッも出走を取りやめています。アルプ・デュエズ2連戦を前に、王者の帝国は静かに軋んでいます。

🔰 初心者向けメモ: ブルームワゴン——最後尾を走る「ほうきの車」

ツールの隊列のいちばん後ろには、「ブルームワゴン(voiture balai=ほうきの車)」と呼ばれる大会車両が走ります。その名のとおり、かつては車体にほうきをくくり付けていました。役割は、力尽きて棄権する選手を道路から「掃き集める」こと。この車に乗り込み、ゼッケンを外される瞬間が、選手にとってのツールの終わりです。中継で「ブルームワゴンの前を走っている」と言われたら、それはレース全体の最後尾という意味——マクナルティはその位置で何十kmも粘ってから、静かにレースを去りました。

出典:Cyclingnews: Brandon McNulty abandons the Tour de France on stage 18Cyclingnews: 'Doing half the watts' - Tim Wellens avoids time cut by two minutesCyclingnews: 'There are bodies everywhere' - Tadej Pogačar plays down wave of illness

今日の寄り道

自転車をちょっと離れて、ステージが駆け抜けた土地の話。

食文化ヴェルコールの青、ブルー・デュ・ヴェルコール=サスナージュ

序盤の1級アンジャンで選手たちが駆け上がったヴェルコール高原は、牛乳から造る青カビチーズ「ブルー・デュ・ヴェルコール=サスナージュ」の産地です。中世から高原の農家が造り続け、1998年には原産地呼称(AOC)に認定されました。名前の後半は、高原から下った麓の町サスナージュのこと——この日の選手たちがグルノーブルの谷へ急降下した、まさにあの道筋です。マイルドな青カビは初心者向きと言われる味わいで、青カビ入門にもどうぞ。

食文化幼子イエスのクッション、トゥルトン

ゴールのオルシエールが位置するシャンプソー谷の名物が、薄い生地にジャガイモのピュレなどを包んで揚げる小さな四角い揚げ菓子「トゥルトン」です。かつてはクリスマスのごちそうで、ふくらんだ姿から「幼子イエスのクッション」という愛称も。塩味はジャガイモとチーズ、甘いものはリンゴやプルーンと、家ごとに秘伝のレシピが受け継がれてきました。山頂ゴールで力尽きた選手たちにも食べさせてあげたい、谷のソウルフードです。

土地の記憶ナポレオン街道の町、コルプス

ピーダスンが25点を摘んだ中間スプリントの町コルプスは、「ナポレオン街道」の宿場町です。1815年、流刑先のエルバ島を脱出したナポレオンが、パリへ向けて進軍した道筋——コート・ダジュールからグルノーブルへ抜けるその街道は、今は国道85号として整備され、道標には皇帝のシンボルである鷲が刻まれています。皇帝の軍勢が越えた山道を、211年後の夏、40人の逃げ集団が駆け抜けていきました。

写真: Wikimedia Commons(フリーライセンス)

この日の公式ハイライト

J SPORTS公式【フィニッシュシーン】第18ステージ
Velon公式 第18ステージ ハイライト(5分35秒)
J SPORTS公式【辻啓の現地レポート】第18ステージ

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この記事を書いた人

Grand Tour Hub 管理人

ロードレースの面白さを初心者目線で伝えるファンサイトの管理人。いちばん好きなのは、ゴール直前までもがいてスプリンターを発射させたアシストが、仲間の勝利を確信して、自分はまだゴールの手前なのにガッツポーズをする瞬間です。

※ 観戦記は管理人による独自の執筆コンテンツです。選手タイプの解説はタイプ図鑑もどうぞ。