ひとりになったポガチャルの無線が伝えていたのは、後ろの集団との差だけでした。土の道を抜け、最後の400mへ。その坂で、後ろからひとつの影が近づいてきます。
エンリク・マス、31歳。この日の朝、総合ではログリッチの後ろにいたスペイン人です。彼はライバルたちを置いて、単独で追い始めていました。デブライネを抜き、砂利の1.9kmで差を詰め、舗装に戻ってからも詰め続け、山頂の手前でついに赤い背中に追いつきます。そして、そのまま前に出ました。
山頂を先頭で越えたのはマスでした。ログリッチとガルの集団は、そこから30秒ほど遅れて頂上を通過しています。
無線がその名前を伝えていなかったポガチャルは、あとでこう振り返りました。
「マスがそこにいるなんて、まったく知らなかった。有力勢の集団は40秒から50秒後ろだと聞いていたから。でも、この登りをよく知らなかった。ペース配分をすっかり間違えたんだと思う」
「マスは、頂上のちょうどそこで来た。『おい、何が起きてるんだ、これは観客か?』という感じだったよ。でもすぐに分かった。彼はこの登りを知っている、強い走りをしていた。だからその場ですぐ、彼に集中した」
🔰 初心者向けメモ: 山頂に置かれた6秒
マスが先頭で越えたバルトロの頂上には、ボーナスタイムが置かれていました。先頭通過に6秒、2番目に4秒、3番目に2秒。ゴールのボーナス(1位10秒・2位6秒・3位4秒)とは別に、峠のてっぺんでも時計が動きます。
たった6秒のために、と思うかもしれません。それでも主催者がこの仕掛けを置くのは、「山頂で誰かが必ず全力を出す」からです。頂上からゴールまでまだ20km以上あって、本来なら脚を残しておきたい場面でも、6秒がぶら下がっていれば誰かが踏む。その一撃が、その日のレースの形を変えることがあります。
この日の内訳はこうでした。山頂ではマスが6秒、ポガチャルが4秒。ゴールではポガチャルが10秒、マスが6秒。合計するとポガチャル14秒、マス12秒です。