ブエルタ・ア・エスパーニャ2026 Stage 62026年8月28日文: Grand Tour Hub 管理人

砂利道で独走した絶対王者が、追いついてきたスペイン人をスプリントで下した

アルコセブレ → カステリョン 177.4km(中級山岳/獲得標高3,080m。前半に2級山岳と3級山岳をひとつずつ越え、中盤は地中海沿いの平坦。残り57.3kmのベニカシムに中間スプリント。終盤は同じ山塊を二度登り、1周目が2級山岳アルト・デル・デシエルト・デ・ラス・パルマス(7.6km・平均4.9%)、2周目が1級山岳プエルト・デル・バルトロ(9.4km・平均7.1%)。バルトロは登り始めて6.3kmで舗装が切れ、そこから1.9kmが未舗装。平均勾配11.8%、入口は20%。山頂は残り20.6kmで、下ったあとの最後は平坦)

スペインに入って2日目、レースは地中海沿いのアルコセブレからカステリョンへ向かいました。プロフィールの区分は「中級山岳」。けれど終盤に待っていた1級山岳プエルト・デル・バルトロには、9.4kmのうち1.9kmだけ舗装が切れる区間があります。平均勾配11.8%の、林の中の土の道です。そこで赤いジャージが抜け出したとき、この日はもう終わったように見えましたが、後ろからひとり、戻ってきた選手がいました。

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前半のふたつの山を越えると、中盤は地中海沿いの平坦。終盤は同じ山塊を二度登り、二度目が1級山岳プエルト・デル・バルトロです。頂上からゴールまでは20.6kmで、その半分は下りでした 2級山岳 プエルト・デ・ラ・セラテリャ残り133km地点 3級山岳 コリェ・デ・ラ・バンデレタ残り111km地点 中間スプリント ベニカシム残り57km地点 2級山岳 デシエルト・デ・ラス・パルマス残り49km地点 1級山岳 プエルト・デル・バルトロ残り21km地点

📊 今日のデータ

シーズン集計を見る →
スタート晴れ 30.8℃・風7m/s
ゴール晴れ 35.8℃・風5.8m/s
逃げ16人 → 捕獲(残り23.5km)
決着少人数の勝負(タデイ・ポガチャル)
総合タデイ・ポガチャルが首位堅持(+214秒)
完走178 / 180人
敢闘賞タデイ・ポガチャル(#11・UAE Team Emirates XRG)

逃げが決まるまでに2時間かかり、赤いジャージのチームが牽いた

この日の集団は、朝から落ち着きませんでした。誰かが飛び出しては吸収され、また別の誰かが出ていく。16人の逃げがようやく固まったのは、スタートから80kmを過ぎたころでした。

そこにはワウト・ファンアールペリョ・ビルバサンティアゴ・ブイトラアンドレアス・クロジョージ・ベネッら、ステージ優勝を狙える顔が並びます。総合順位でいちばん上にいたのはラムセス・デブライで、この日の朝の時点で12位、赤いジャージとの差は4分44秒でした。

逃げが決まらないあいだ、集団の先頭を守り続けたのはUAEチーム・エミレーツ・XRGです。タデイ・ポガチャ自身が、その一日をこう説明しています。

「今日は逃げを行かせる計画でした。でも逃げができるまでに2時間近くかかった。だから結局、レースをコントロールするために、ステージの半分弱を自分たちで牽くことになったんです」

出典:ラ・ブエルタ公式レポート(逃げの形成とデブライネの総合順位)Cycling Weekly(Yahoo Sports 転載): 「it took nearly two hours to form a breakaway」——ポガチャルの発言

最初の白いジャージを着た男が、1時間で自転車を降りた

その2時間のあいだに、ひとりの選手がレースを去っていました。ジョシュア・ターリン、22歳。スタートからおよそ1時間で自転車を降りています。

8月14日、ボルタ・ア・ポルトガル第8ステージで、彼の弟フィンレイが亡くなりました。19歳でした。その8日後、ターリングはモナコの開幕タイムトライアに出走し、3位に入って、この大会最初のマイヨ・ブランコ(ヤングライダー賞)を着ています。走ることを選んだ理由を、彼はそのときこう話していました。「気を紛らわせる必要があったんだ」。

前日の第5ステージ、彼は勝者から11分近く遅れた最後尾の集団でゴールしていました。そしてこの日、レースを降りました。チームは理由を説明していません。ネットカンパニー・INEOSが出したのは、次の一文だけです。

「ジョシュ・ターリングの勇敢なブエルタは、彼自身が止めることを決めて終わりました。これ以上ないほど誇りに思います」

出典:Domestique: Joshua Tarling’s Vuelta comes to an end(チーム声明と、チームが理由を説明していないこと)IDL ProCycling: Tarling withdraws on stage 6(降りたのがスタートから約1時間後であること・前日の着順)

ビーチリゾートの中間スプリントで20点を獲って、沿道へ手を振った

残り57.3km、海沿いのベニカシムに中間スプリンが置かれていました。砂浜で知られるビーチリゾートで、道の両側には人が出ています。

そこを先頭で駆け抜けたのはファンアールでした。1位の20点。この時点でポイント賞の2位に上がり、首位のポガチャとの差は14点になります。この日の彼の目的は、そこにありました。

「あの点数が、今日のいちばんの目標になりました。前で自由をもらえなかったからです。序盤から、逃げに与えられる余地は少ないと感じていました。ステージ優勝を争えたらよかったけれど、それは無理でした」

スプリントで少しだけ開いた差を、彼は自分から止めて、後ろの仲間を待ちました。そして、沿道へ手を振っていました。

このあとアルト・デル・デシエルト・デ・ラス・パルマスで逃げのペースが上がると、ファンアールトはそこで離れていきます。20点を持って集団へ帰る、という一日でした。

出典:チーム・ヴィスマ・リースアバイク公式レースレポート(ファンアールトの発言。オランダ語)Cyclingnews: 第6ステージ ライブブログ(中間スプリントの制圧と、そのあと仲間を待ったこと)

9.4kmのうち1.9km、舗装が切れる

残り20.6kmに置かれた1級山岳プエルト・デル・バルトロは、ブエルタに初めて登場する峠です。9.4km、平均7.1%。数字だけなら、この大会で特別に厳しい山ではありません。特別だったのは、登り始めて6.3kmを過ぎたところで舗装が終わることでした。

そこから1.9km、道は林の中の土と砂利になります。入口でいきなり20%まで跳ね上がり、そのあとも平均11.8%。抜けたところで短い下りがあり、山頂までの最後の400mはふたたび12.5%の激坂です。

先頭でその土の道に入っていったのは、逃げの生き残りのデブライでした。後ろの集団では、UAEの3人が前を固めています。この日の仕事の分担を、ポガチャはあとでこう話しました。

ジョアン・アルメイケヴィン・ヴェルマーが集団をまとめるいい仕事をしてくれて、そのおかげで僕はステージを狙いにいけた。登りではパヴェル・シヴァコジェイ・ヴァイパブロ・トレが牽いて、完璧なアタックの形を作ってくれたんだ」

そのアタックは、山頂まで3kmを切ったあたり——ステージとしては残り23.5kmの地点で始まりました。まずついてきたオスカー・オンリを引き離すと、ポガチャルはそのままデブライネも抜き去っていきます。プリモシュ・ログリッフェリックス・ガリチャル・カラパ——総合のライバルたちは、後ろに残されました。

🔰 初心者向けメモ: 舗装が切れる坂を、主催者はなぜ入れるのか

未舗装の道は、ロードレースにとって余計なものではありません。むしろ、このスポーツが始まった頃の道そのものです。舗装路だけを走るようになったのは後の話で、いまも春先のストラーデ・ビアンケはトスカーナの白い砂利道を看板にしていますし、ジロ・デ・イタリアのフィネストは砂利の峠として恐れられています。

主催者がこういう道を入れたがるのは、未舗装路が「強さ」以外の要素を勝負に混ぜるからです。路面が悪ければ集団は一列になり、前にいなければ前へ出られません。滑る路面では踏み方も変わります。パンクや機材トラブルの確率も上がります。つまり、きれいな舗装路よりも運と技術の取り分が大きくなる——設計者はそれを承知のうえで、総合が動きそうな場所にわざと置きます。

この日のバルトロがそうでした。1.9kmしかない土の道が、177.4kmのなかでいちばん多くのことが起きた場所になりました。

出典:ラ・ブエルタ公式 第6ステージ(バルトロの諸元と1.9kmの未舗装区間、山頂から残り20.6km)Domestique: Who will conquer the gravel wall to Castelló?(未舗装は登坂6.3km地点から1.9km、平均11.8%)Ciclismo a Fondo(スペインの自転車専門誌): 「un 1ª categoría inédito en la Vuelta a España」——ブエルタ初登場の1級山岳であることJ SPORTS: 第6ステージ/コース(林の中の未舗装路であること、山頂までの最後400mが12.5%)Cycling Weekly(Yahoo Sports 転載): アタックは山頂まで3kmを切った、ステージ残り23.5kmの地点。UAEの5人を名指ししたポガチャルの発言

そして、後ろから戻ってきた

ひとりになったポガチャの無線が伝えていたのは、後ろの集団との差だけでした。土の道を抜け、最後の400mへ。その坂で、後ろからひとつの影が近づいてきます。

エンリク・マ、31歳。この日の朝、総合ではログリッの後ろにいたスペイン人です。彼はライバルたちを置いて、単独で追い始めていました。デブライを抜き、砂利の1.9kmで差を詰め、舗装に戻ってからも詰め続け、山頂の手前でついに赤い背中に追いつきます。そして、そのまま前に出ました。

山頂を先頭で越えたのはマスでした。ログリッチとの集団は、そこから30秒ほど遅れて頂上を通過しています。

無線がその名前を伝えていなかったポガチャルは、あとでこう振り返りました。

「マスがそこにいるなんて、まったく知らなかった。有力勢の集団は40秒から50秒後ろだと聞いていたから。でも、この登りをよく知らなかった。ペース配分をすっかり間違えたんだと思う」

「マスは、頂上のちょうどそこで来た。『おい、何が起きてるんだ、これは観客か?』という感じだったよ。でもすぐに分かった。彼はこの登りを知っている、強い走りをしていた。だからその場ですぐ、彼に集中した」

🔰 初心者向けメモ: 山頂に置かれた6秒

マスが先頭で越えたバルトロの頂上には、ボーナスタイムが置かれていました。先頭通過に6秒、2番目に4秒、3番目に2秒。ゴールのボーナス(1位10秒・2位6秒・3位4秒)とは別に、峠のてっぺんでも時計が動きます。

たった6秒のために、と思うかもしれません。それでも主催者がこの仕掛けを置くのは、「山頂で誰かが必ず全力を出す」からです。頂上からゴールまでまだ20km以上あって、本来なら脚を残しておきたい場面でも、6秒がぶら下がっていれば誰かが踏む。その一撃が、その日のレースの形を変えることがあります。

この日の内訳はこうでした。山頂ではマスが6秒、ポガチャルが4秒。ゴールではポガチャルが10秒、マスが6秒。合計するとポガチャル14秒、マス12秒です。

出典:CyclingUpToDate: 第6ステージ結果(マスの追走と、山頂を30秒差で越えた集団)Cyclingnews: 「is this a spectator?」——抜かれた瞬間についてのポガチャルの発言(英語)ラ・ブエルタ公式 第6ステージ順位表(ボーナスタイム:ポガチャル14秒・マス12秒)CyclingStage: 第6ステージのコース(山頂のボーナスは6・4・2秒、ゴールは10・6・4秒)

「危ないコーナーがあると知らせた」——下りと、最後の握手

山頂からカステリョンまでは20.6km。前半は急な下りで、後半はほぼ平坦です。

その下りで、ポガチャがコーナーを見誤りました。曲がりきれずに道の外へ出て、草の上へ。落車はせず、ペダルから足を外し、溝のふちをやり過ごして舗装路に戻ります。数秒の出来事でした。

は、その手前で彼に声をかけていたと言います。「バルトロの下りで、危ないコーナーがあると彼に知らせました。彼はコースを外れてしまったけれど、ああいう選手たちは車体のさばき方がすごい。ちゃんと立て直しました」

戻ってきたポガチャルは、そこからゴールまでの平坦を、さっきまで自分を追いつめていた相手と並んで走ることになります。向かい風でした。2人だけの逃げは牽制になりやすのですが、この日のふたりは最後まで交代で牽き、いちど15秒差まで近づいた後ろの集団を、また30秒以上まで突き放しています。

「彼が下りを知っているのは確信していた。最後の10kmを向かい風のなかで彼と一緒に走れたのは、正直うれしかったよ。ボトルの水がもう無かったし、隣に一緒に走る相手がいるのはいいものだからね。スプリントでは勝てると分かっていた。それでも、彼が全力を出し切ったことは立派だと思うし、僕も最後まで全力を出し切った。彼に脱帽だ。いいレースだった」

最後の1kmは、マスがポガチャルを前に立たせる形で入りました。それでもスプリントはポガチャルのもので、そのまま先着します。この大会3勝目。2位のマスは同タイム、3位のデブライは46秒遅れでした。

そしてラインを越えたあと、ふたりは握手を交わしました。20km以上を交代で牽き合って、最後の数百メートルだけを奪い合った相手です。

ゴールのあと、マスはこう言いました。「スプリントでは、できることはほとんどなかった。ポギ(ポガチャルの愛称)はポギだから」。そして、こうも言っています。「もう2年近く、グランツールで総合を狙って走っていなかった。でもまだ第6ステージだし、少しずつ行くしかない」。

2018年から2024年にかけてブエルタで4度表彰台に立った31歳は、この日、総合2位に浮上しました。ポガチャルとの差は3分34秒です。

【フィニッシュシーン】ブエルタ・ア・エスパーニャ 第6ステージ(J SPORTS公式)

出典:Ciclo21(スペインの自転車専門メディア): 「En la bajada del Bartolo le he avisado de que había curvas peligrosas」——マスの発言(スペイン語)Cyclingnews: 第6ステージ レポート(「I had no water」「Chapeau to him and it was a great race」——ポガチャルの発言。英語)ProCyclingUK: 第6ステージ レポート(下りのコースアウト、追走が15秒まで詰めたこと、フラムルージュでポガチャルが前を走らされたこと、着順)

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今日の寄り道

自転車をちょっと離れて、ステージが駆け抜けた土地の話。

風土デシエルト・デ・ラス・パルマス——砂のない「砂漠」

この日の終盤、選手たちは同じ山塊を二度登りました。その名は「ヤシの砂漠」。けれど砂丘はどこにもありません。「デシエルト(砂漠)」はカルメル会が隠棲のための場所につける呼び名で、17〜18世紀にこの山中へ修道院が築かれました。「ラス・パルマス(ヤシ)」のほうは本物で、ヨーロッパ大陸に自生する唯一のヤシ(学名 Chamaerops humilis)がこの斜面に群れています。1989年に自然公園に指定された3,293ヘクタールの山で、その最高峰の名がバルトロ、標高729m。レースが越えた峠の頂上は713mですから、道はいちばん高いところの少し下を通っていったことになります。

伝統工芸1727年の王立工場が、カステリョンを焼き物の土地にした

ゴール地点のカステリョンは、いまも世界有数のセラミックタイルの産地です。始まりは1727年、県内の町アルコラ(l’Alcora)に第9代アランダ伯が興した王立工場でした。フランスのムスティエ(Moustiers)で作られていた陶器を手本に高級な焼き物をつくり、1736年には136人が働いて月に2万5千点以上を焼いています。工場そのものは1895年に閉じましたが、粘土と水に恵まれたこの土地に「産業としての焼き物」を植えたのはこの工場で、県のタイル産業はそこから育ちました。土の道で汚れたバイクが最後にたどり着いたのは、そういう街です。

写真: Wikimedia Commons(フリーライセンス)

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この記事を書いた人

Grand Tour Hub 管理人

ロードレースの面白さを初心者目線で伝えるファンサイトの管理人。いちばん好きなのは、ゴール直前までもがいてスプリンターを発射させたアシストが、仲間の勝利を確信して、自分はまだゴールの手前なのにガッツポーズをする瞬間です。

※ 観戦記は管理人による独自の執筆コンテンツです。選手タイプの解説はタイプ図もどうぞ。