この日ツールを去ったのは、ヴィンゲゴーだけではありません。第7・第8ステージを連勝し、第12ステージでは幼い息子の待つ表彰台に上がって今大会3勝目を挙げたスプリンター、メルリールが、アルプス初日の山の中でバイクを降りました。彼には夢がありました。ツール最終日、パリ・シャンゼリゼの大舞台でスプリントを繰り広げること。「いつかシャンゼリゼでスプリントしたい。まだ実現していないんだ」——シクロクロス出身で舗装路のロードに本腰を入れたのが遅かった彼は、キャリアを通じてまだ一度も、あの憧れのスプリントに加われていません。
3勝を挙げてなお、彼が口にしていた目標は「パリまで生き延びる」ことでした。前日の第14ステージも、一日の登りを合計した獲得標高が約3,800mという厳しい山岳でしたが、それでも制限時間内でなんとか耐え抜きました。けれど連日で、獲得標高およそ4,000mのこの日は、あまりに重すぎました。序盤で早々に集団から千切れ、チームメイトのエインコールンと追走したものの、制限時間に間に合わないと悟って、ペダルを止めました。
彼の所属するチーム、スダル・クイックステップの監督ブラマティは率直でした。「止まらざるを得なかったのは残念だ。彼はいい一日ではなかった——空っぽで、完走できなかった。とにかくバッドデーだったんだ。全力は尽くした」。
同じくスプリント勝負に懸けてきたベルギー人のファンアスブルックも、この日ツールを去りました。派手な優勝でプロトンを三度も沸かせた男のパリの夢は、山の入り口で潰えました。ツールは勝つ者の物語であると同時に、夢を断たれて去っていく者の物語でもあります。
🔰 初心者向けメモ: スプリンターにとって、パリは「山を越えた先」にある
ツール最終日のパリ・シャンゼリゼは、スプリンターにとって一年で最も名誉ある勝利の舞台のひとつです。だからこそ純粋なスプリンターたちは、自分の土俵ではない山岳を歯を食いしばって越え、制限時間と戦いながらパリを目指します。とりわけ2026年のコースは終盤に大きな山岳が連なり、「スプリンターにはアルプスを生き延びられるかどうかが、パリでの一発を狙う条件になる」とメルリール自身が開幕前から警戒していました。地形の不利にくわえ、その日の不調(バッドデー)まで重なれば、夢のゴールは一気に遠のきます。勝つ者の物語の陰で、山を越えられずに去っていく男たちがいる——それもまた、3週間のツールの真実です。