発射台のつもりが、見送られた——22歳の「信じられない」の顔
第2ステージの観戦記で「絶対王者が発射台になった」と書いた、あのモンジュイックのフィナーレ。実はその数十秒に、もっと細かい物語が詰まっていました。最終盤、下りで飛び出したスケルモースを自ら追い戻したデルトロは、残り700mで先頭に立ちます。エースのポガチャルを発射するための牽き——のつもりでした。ところが、いつまで経っても王者は前に出てきません。わざと車輪を離して、後輩に道を譲っていたのです。異変に気づいたデルトロは思わず後ろを振り返り、その拍子に柵に接触しかけました。チーム公式レポートが「何が起きたのか信じられない様子だった」と書いたその顔のまま先頭でラインへ向かい、残り50mで追いついたポガチャルと並んで、ワンツーフィニッシュを決めたのです。「勝てて最高にうれしい。でも間違いなくこれは贈り物です。一生忘れません」とデルトロ。実はこの日、彼は残り約60km地点で変速機のトラブルに見舞われ、チームカー2台に気づかれないまま素通りされていました。停まって助けたのはライバルチームのヴィスマとネットカンパニー・INEOSのメカニックで、遅れて駆けつけたUAEのメカニックはスペアバイクでコースを逆走し、罰金まで受けています。約2分遅れから独力で集団に戻ってきた22歳に、王者は最高の形で応えました。「彼はチャンピオンで、素晴らしい男で、素晴らしい友人だ。勝利に値する。言葉がないよ」。チームバスの前ではメキシコ人ファンが「ポギ、エルマーノ(兄弟)!」とポガチャルをメキシコ人あつかいするチャントを歌い、王者は巨大なメキシコ国旗を掲げて応えました。3週間後、デルトロは総合3位——メキシコ人として史上初めて、ツールの総合表彰台に立つことになります。
🔰 初心者向けメモ: ライバルチームのメカニックが停まる理由
レース中の機材トラブルは自チームのカーが直すのが基本ですが、カーが遠いときは、主催者が用意する中立の「ニュートラルサポート」の車や、たまたま居合わせた他チームのメカニックが手を貸すことも珍しくありません。3週間のレースでは、明日は自分のエースが同じ目に遭うかもしれない——だからチームの垣根を越えて助け合うのが、プロトンに根付いた文化です。この日デルトロを最初に助けたのは、総合優勝を争うヴィスマ・リースアバイクのメカニックでした。
出典:Cyclingnews: Sportsmanship on show as Del Toro gets mechanical assistance from rival teams ↗UAEチーム・エミレーツXRG公式: Del Toro & Pogačar take incredible 1-2 finish ↗Cyclingnews: 'It's a Tadej Pogačar masterpiece' - a gift of a lifetime to Isaac del Toro ↗Escape Collective: Del Toro and Pogačar go with the flow to secure team one-two in Barcelona ↗