UCI世界選手権大会2026 個人TT2026年9月21日文: Grand Tour Hub 管理人

TT王者がコーナーで差をつけ、2位に57秒差で4連覇を決めた

モントリオール市街 39.2km 個人タイムトライアル(Avenue du Parc を発着に、旧市街とセントローレンス川沿い、F1カナダGPのジル・ヴィルヌーヴ・サーキットを回ります。獲得標高220m・UCI発表。ほぼ平坦で、上りらしい上りはゴール前の400m・平均6.1%だけです)

モントリオールで世界選手権が始まりました。初日の午後に行われた男子エリートの個人タイムトライアルは、39.2kmでほぼ平坦、上りらしい上りはゴール前の400mだけです。それでも1位と2位には57秒の開きが出ました。差を作ったのは、旧市街とサーキットに詰め込まれたコーナーです。勝った選手はそこでタイムを稼ぎ、3位に入った選手はそこでリスクを避けました。そして、そこで転んだ選手は、表彰台に13秒届きませんでした。

Avenue du Parc を下って出発し、旧市街とセントローレンス川沿い、そしてジル・ヴィルヌーヴ・サーキットを回って戻る39.2km。同じ大会のロードレース(獲得標高3,803m)と同じ目盛りで描いているので図はほとんど平らですが、右端の跳ね上がりがゴール前400m・平均6.1%の上りです

今日のデータ

スタート曇り 15℃・風1.8m/s
ゴール曇り 15℃・風1.8m/s
決着個人TT(レムコ・エヴェネプール)
完走60 / 60人

日本代表はひとりだけ——22番目に出た23歳が、43位で戻ってきた

出走したのは60人でした。日本から来たのは1人、橋川丈です。全体の22番目に、出走台のスロープを下りていきました。

橋川はベルギー生まれのベルギー育ちです。父は全日本プロ選手権を勝った橋川健で、のちにベルギーを拠点に日本の若手を育てるチームの監督になりました。その家には日本人選手たちが住み込んでいて、息子の丈が自転車に乗り始めたのもその中でのことです。2025年に全日本選手権の個人タイムトライアルでアンダー23の日本王者になり、2026年は同じ大会のエリートのクラスで2位。そのレースを、彼はこう振り返っています。「ツアー・オブ・ジャパンのいなべでの落車で頭を打ったこともあって、1週間くらいバイクに乗れず、直前はわずか数回しかトレーニングができていなかった。それでも結果につながったのは、1月からチームのみんなやスタッフ、特にメカのみんなと力を合わせてこれたから。今日はどんな形であっても出走するつもりだった」。所属は、今シーズンから日本のキナンレーシングチームです。

この日は39.2kmを50分38秒、平均時速46.4kmで走って43位。優勝タイムから5分45秒遅れでした。この種目に集団はなく、前の選手の後ろに入って風をよけることも禁じられています。60人が同じ道をひとりずつ走ったこの日、日本のジャージを着ていたのはこの1人だけでした。

出典(2件)

エヴェネプールが前人未到の世界選手権TT4連覇(「全体の22番目にスタートした橋川は5分45秒遅れの43位で、自身初となる世界選手権男子エリート個人TTを終えている」)— cyclowiredMen Elite Individual Time Trial 公式リザルト — Tissot Timing

19歳がデンマークの王者を35秒上回り、暫定トップの椅子に座った

この日の最初の基準をつくったのは、カスパー・アスグリーでした。4度のデンマークTT王者が46分41秒で走り、出走者の中で初めて47分の壁を破ります。そのタイムはしばらく破られず、ゴールに置かれた暫定トップの椅はデンマーク人のものでした。

そこへポール・セクサが来ます。10.7km地点の第1計測では、セクサスがアスグリーンを1.74秒上回っただけでした。ところが距離が進むほど差は開き、ゴールではその差が35秒に広がっています。46分06秒。19歳のフランス人が椅子に座ります。フランスがこの種目でメダルを獲るのは、2015年に3位だったジェローム・コペル以来11年ぶりでした。

そのセクサスは、コーナーで攻めていません。ラインは頭に入れたうえで、車体を深く倒し込まずに抜けていきました。「コーナーではあまりリスクを取らなかったし、それは少し残念でもある——失った時間はたぶん、フィリッポ・ガンナと比べて序盤と終盤のコーナーにあると思うからだ。今日は彼のほうが強かったし、自分の居場所はここだ」。7日後のロードレースでも有力候補に挙げられている選手で、本人は次の目標の前に落車する危険を冒したくなかったと説明しています。

初心者向けメモ: コーナーで攻めるかどうかは、来週の予定も含めて決める

平坦なタイムトライアルで、選手が自分の意思で速さを変えられる場所は、じつは多くありません。ところがコーナーだけは、どこまで車体を倒すか、どこでブレーキを離すかを1本ごとに選べます。だからコーナーの多いコースほど、脚力の近い選手のあいだにタイム差が生まれます。

しかもタイムトライアルのバイクは、空気抵抗を削ることに全部を捧げた機械で、曲がるのがもともと苦です。滑れば落車して、怪我をすれば次のレースにも出られません。実際この日は、1週間後にロードレースが控えていました。そうなると「ここで何秒取りにいくか」の判断は、今日のタイムだけを見て決めるのとは変わってきます。選手はコーナーのたびに、その両方を計算しているわけです。

出典(4件)

エヴェネプールが前人未到の世界選手権TT4連覇(アスグリーンとの1.74秒・35秒)— cyclowiredル・フィガロ(AFP配信)。「Je n'ai pas pris trop de risques dans les virages et peut-être c'est une petite déception parce que le temps que je perds, je pense que c'est dans ces virages au début et à la fin par rapport à Filippo (Ganna). Après il était plus fort aujourd'hui, je suis à ma place」— QuebecNouvelles による転載UCI Road World Championships – Men's time trial(歴代メダリスト表。2016年から2025年までフランス勢のメダルは無く、直近は2015年リッチモンドのジェローム・コペル3位)— Wikipedia'It's definitive proof that I'm one of the specialists'(記者会見。「I didn't want to take the risk of crashing before upcoming targets」)— Cyclingnews

どの計測でもセクサスより速かった23歳が、終盤の左コーナーで滑った

セクサスが椅子に座って見ているあいだに、明らかに速い選手が来ていました。ヤコブ・セーデルクヴィスです。スウェーデン選手権の個人タイムトライアル王者で、2025年のアンダー23世界選手権では個人TTを勝っています。23歳、エリートの世界選手権は初めてでした。スウェーデン代表の監督は、8月の代表発表でこう話しています。「エリートでのメダルという目標は、まあ何年か先だろう。でも、彼がうまく調子を合わせられればと思っているし、そうなればエリートの世界選手権でどこまで通用するのか、見ていて面白くなる」

本人はレース前、スウェーデン自転車連盟の取材でコーナーの話をしていました。ふだん所属するリドル・トレックの仲間がこのコースのコーナーを数えて、全部で57か所、そのうち40ほどはテクニカルで、抜けたあとに鋭い加速が要ると強調していた——そう言います。そして、同じ取材でこうも言っていました。「外から見ているだけでは分かりにくいけれど、コーナーを出るときの速度がライバルより少し高ければ、ほとんどのコーナーで1秒近く稼げる」

実際、10.7kmの第1計測でセクサスを約9秒上回り、21.9kmの第2計測でも、29.8kmの第3計測でも上回りました。第3計測の時点で差は5秒。残りは9kmあまりで、そこを無事に走り切ればメダルでした。

そのあとの左コーナーへ、セーデルクヴィストは速度を落とさずに入りました。タイヤが逃げて、体は路面へ。すぐに起き上がって走り出しましたが、失った時間は戻ってきません。擦り傷だらけでゴールして46分19秒、5位。3位のセクサスとは13秒差、4位に入ったアメリカのブランドン・マクナルテとは1秒に満たない差でした。

セクサスは表彰台を降りたあと、セーデルクヴィストのことを話しています。「もし彼が転んでいなかったらどうなっていたかは分からないけれど、自分にとってはよかったのだろう、たぶん。でも、誰かが転ぶのを見るのは、決して気持ちのいいものじゃない」

初心者向けメモ: ひとりで走る種目では、失った時間は戻ってこない

集団のレースで落車した選手には、まだやれることがあります。チームメイトが下がってきて風よけになり、集団のペースが落ちれば追いつけます。

タイムトライアルにそれはありません。前にも後ろにも味方はいないので、起き上がって、チェーンとハンドルを確かめて、自分で速度を上げ直すところからやり直しです。止まっていた時間も、元の速度に戻すまでの時間も、そのままタイムに足されます。この日の13秒は、そういう13秒でした。

出典(5件)

エヴェネプールが前人未到の世界選手権TT4連覇(「第2計測(21.9km)、第3計測(29.8km)でもセクサスを上回ったが、終盤の左コーナーで落車し」)— cyclowiredSverige skickar åtta cyklister till ett mycket intressant VM i Montréal(スウェーデン自転車連盟の代表発表、2026年8月27日。代表監督ルーカス・ペルソンの「Målet om en medalj i elit är väl något år framåt. Men jag hoppas att han kan pricka bra form och sedan blir det intressant att se hur långt det räcker i ett VM i elitklassen」)— Svenska CykelförbundetU23-världsmästaren har fokus på 40 avgörande kurvor under tempo-VM(スウェーデン自転車連盟。「det finns hela 57 kurvor längs banan och ungefär 40 stycken tekniska där det blir ganska skarpa accelerationer efter」「det går att tjäna upp emot en sekund i de flesta kurvor genom att ha lite högre utgångshastighet än konkurrenterna」)— Svenska CykelförbundetRemco Evenepoel assomme la concurrence sur le contre-la-montre des Mondiaux(第3計測で5秒差、落車の位置)— franceinfoル・フィガロ(AFP配信)。「Je ne sais pas ce qui se serait passé s'il n'était pas tombé, mais c'est bien pour moi, je suppose. Mais ce n'est jamais agréable de voir quelqu'un tomber」— QuebecNouvelles による転載

第1計測で10番手だった男が銀を獲り、自己最高の出力でも1位に57秒届かなかった

一方、フィリッポ・ガンは走りながら順位を上げていました。第1計測の通過は全体の10番手。そのとき先頭だったセーデルクヴィスから10秒以上遅れていました。前半を抑えて後半に上げるのが、この人の走り方です。第3計測でセーデルクヴィストのタイムを上回り、そのセーデルクヴィストが転んだコーナーを無事に抜けて、45分50秒でゴール。セクサスを15.73秒上回りました。2023年以降の4大会で3度目の2位、この種目では通算6個目のメダルです。

それでも表情は晴れませんでした。45分の全力走としてはキャリア最高の出力だったと本人が言い、それで57秒負けたからです。「うれしいよ。今日は自分に出せる最大を出した——たぶん、自分に可能だと思っていた以上のものを。数字を見ても、たぶん出し切って空っぽだ。全部うまくやったし、どこで時間を失ったのか分からない」。路面のことも言いました。「世界選手権は、とくにスタート地点は、いちばん良い舗装に値すると思う」「みんな同じ舗装だったけどね、新しい舗装だったら全員にとってよかったんじゃないかな」

これはガンナだけの言い分ではありません。エヴェネプーのスポーツディレクターはコースの下見の時点で「実のところ、世界選手権としては少し情けない」と言っていました。8位のアスグリーの見立ても、ガンナのそれとほぼ同じです——大都市にはよくある道で、直そうとしてはいるが交通量が多くて追いつかない、ただし「市街地の外、橋や自転車道みたいなところは、とてもいい路面だった」。

地元ケベックのニコラ・ズコウスキは、少し違う角度から答えています。「それも自転車競技の一部でしょう? 何かに文句を言うこと。僕らがいちばん得意なことじゃないですか」

その57秒を作った側、レムコ・エヴェネプールが返したのは、路面のことではなく、ガンナの出力のことでした。「彼は2位のときも勝ったときも、毎回それを言う。今日のコースでそれを言うのは難しいと思う——コーナーがあれだけあったんだから、平均パワーとノーマライズドパワーはかなり離れている、とだけ言っておくよ」

初心者向けメモ: 最高の出力が、最高のタイムにならないとき

ワットは、ペダルを踏む強さの単位です。45分間の平均ワットが高いほど強い——おおむねそうなのですが、コーナーだらけのコースでは話が変わります。

コーナーのたびに減速し、立ち上がりでまた加速する。この加速には一瞬だけ大きな力が要りますが、一瞬なので45分で平均すると数字にはあまり残りません。体はきついのに、平均ワットは上がらないわけです。そこで使われるのが「ノーマライズドパワー(標準化パワー)」で、強く踏んだ時間を重く数え直した値です。同じ選手の同じ45分でも、平坦な一本道ならこの2つはほぼ同じ、コーナーだらけなら大きく離れます。

エヴェネプールが「2つがかなり離れている」と言ったのは、そういう日に平均ワットの自己最高を持ち出しても、タイムの説明にはならないという意味です。数字は、それが出たコースとセットでないと読めません。

出典(4件)

Mondiale crono uomini 2026: le voci di Ganna ed Evenepoel(イタリア語。「Sono felice. Oggi ho dato il massimo che potevo dare, forse anche qualcosa in più di quello che ritenevo possibile. Sono probabilmente vuoto anche numeri alla mano. Ho fatto tutto bene, non so dove abbiamo perso tempo」)— cicloweb.it'I've improved a lot in cornering on a TT bike'(舗装への批判と、エヴェネプールの「average power and normalised power are quite a lot divided」)— CyclingnewsEvenepoel faces trickier than expected Worlds time trial as course branded 'a bit of a disgrace'(ロデウェイク「It is actually a bit of a disgrace for the World Championships」)— DomestiqueNot every international rider hates the roads of Montreal's time trial route(ビセッガー「the roads are really crappy here」、アスグリーン「the parts outside of the city itself, on the bridges and the bike paths and so on, they were very nice surfaces」、ズコウスキー「Isn't that part of cycling? Complaining about something? That's what we do best, isn't it?」)— Canadian Cycling Magazine

3つの計測すべてで最速——最後に出た男が、4本の指を立ててゴールした

最後に出走台を下りたのは、前回大会の王者レムコ・エヴェネプーでした。彼のチームは下見で荒れた区間を地図に落とし、走行中に後ろの車から読み上げる準備をしていました。そのスポーツディレクターの言葉では「ラリーでペースノートを取る人に、少し似ている」。スタート直後のきついコーナーで縁石に接触しかけながら、そのまま踏み続けます。

最初の公式計測——第1計測は10.7km地点ですが、その手前の6km地点に、チームは自分たちの計測を置いていました。「そこで、自分がもう他の全員より前にいると分かった。第1計測はペースを上げすぎたかと思ったけれど、そのまま押し続けられた。一日じゅう、すばらしい感触だったと言うしかない」。その第1計測でセーデルクヴィスに9秒の差をつけ、21.9kmの第2計測では同じ相手に34秒、29.8kmの第3計測ではガンナに48秒差をつけました。3つの中間計測すべてで最速のまま、44分53秒でゴールしました。平均時速52.4km——52km台に乗ったのは60人でこの人だけです。

2位はガンナで、差は57秒。この並びは3度目ですが、2023年のグラスゴー大会では12秒、2024年のチューリヒ大会では6秒しかついていませんでした。そしてこの日の57秒のうち約41秒は、コーナーが18か所ある最初の10.7kmと、180度ターンを含む次の区間でついたものでした。ガンナのことも、こう言っています。「コーナーについても、昔の彼は僕から本当に大きく時間を稼いでいたけれど、TTバイクでも普通のバイクでも、自分はコーナリングがかなり上達したと思う。自信という意味でも、コーナーで思い切って踏み込めるのは大きい」

この種目を4回勝ったのは、ファビアン・カンチェラーラとトニー・マルティン、そしてエヴェネプールの3人だけです。ただし4年続けて勝ったのは、男子エリートではエヴェネプールが初めてでした。無線でタイム差を聞いて勝利を確信すると、彼は舌を出し、ゴールでは右手で4本の指を立てました。

レムコ・エヴェネプールが4連覇を決めた瞬間(23秒)— UCI公式YouTube

※ 公式アカウントが公開しているコンテンツの埋め込みです。映像の権利は各権利者に帰属します。

出典(3件)

Record-breaking Remco Evenepoel makes it four in a row(「After 6k, we had a personal time check, and I knew that I was already in front of the rest」)— Cyclingnews'I've improved a lot in cornering on a TT bike'(2023年12秒・2024年6秒、最初の10.7kmで約23秒・次の区間で18秒)— CyclingnewsUCI Road World Championships – Men's time trial(「Only Evenepoel was able to win in four successive years」、カンチェラーラとマルティンの4回)— Wikipedia

※ 本文中の埋め込みは公式アカウントが公開しているコンテンツです。映像の権利は各権利者に帰属します。

今日の寄り道

自転車をちょっと離れて、ステージが駆け抜けた土地の話。

食文化モントリオール・ベーグル

フィニッシュのある地区には、1919年創業のFairmount Bagelと1957年開店のSt-Viateur Bagelという老舗があります。この街のベーグルはニューヨークのものより小さく、薄く、穴が大きく、そして甘い。生地に卵とモルトを入れ、塩は入れず、蜂蜜を溶かした湯でゆでてから薪窯で焼きます。東欧のユダヤ系移民が持ち込んだものが、この街で独自に変わった形です。

歴史地下鉄の掘削土でできた島

選手が一周したジル・ヴィルヌーヴ・サーキットは、ノートルダム島という人工の島にあります。1960年代初め、モントリオール地下鉄を掘って出た1,500万トンの岩を積み上げ、10か月で造られた島です。1967年の万国博覧会のために造られ、1976年の五輪ではボート競技の人工池が置かれました。

写真: Wikimedia Commons(フリーライセンス)

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この記事を書いた人

Grand Tour Hub 管理人

ロードレースの面白さを初心者目線で伝えるファンサイトの管理人。いちばん好きなのは、ゴール直前までもがいてスプリンターを発射させたアシストが、仲間の勝利を確信して、自分はまだゴールの手前なのにガッツポーズをする瞬間です。

※ 観戦記は管理人による独自の執筆コンテンツです。選手タイプの解説はタイプ図もどうぞ。