一方、フィリッポ・ガンナは走りながら順位を上げていました。第1計測の通過は全体の10番手。そのとき先頭だったセーデルクヴィストから10秒以上遅れていました。前半を抑えて後半に上げるのが、この人の走り方です。第3計測でセーデルクヴィストのタイムを上回り、そのセーデルクヴィストが転んだコーナーを無事に抜けて、45分50秒でゴール。セクサスを15.73秒上回りました。2023年以降の4大会で3度目の2位、この種目では通算6個目のメダルです。
それでも表情は晴れませんでした。45分の全力走としてはキャリア最高の出力だったと本人が言い、それで57秒負けたからです。「うれしいよ。今日は自分に出せる最大を出した——たぶん、自分に可能だと思っていた以上のものを。数字を見ても、たぶん出し切って空っぽだ。全部うまくやったし、どこで時間を失ったのか分からない」。路面のことも言いました。「世界選手権は、とくにスタート地点は、いちばん良い舗装に値すると思う」「みんな同じ舗装だったけどね、新しい舗装だったら全員にとってよかったんじゃないかな」
これはガンナだけの言い分ではありません。エヴェネプールのスポーツディレクターはコースの下見の時点で「実のところ、世界選手権としては少し情けない」と言っていました。8位のアスグリーンの見立ても、ガンナのそれとほぼ同じです——大都市にはよくある道で、直そうとしてはいるが交通量が多くて追いつかない、ただし「市街地の外、橋や自転車道みたいなところは、とてもいい路面だった」。
地元ケベックのニコラ・ズコウスキーは、少し違う角度から答えています。「それも自転車競技の一部でしょう? 何かに文句を言うこと。僕らがいちばん得意なことじゃないですか」
その57秒を作った側、レムコ・エヴェネプールが返したのは、路面のことではなく、ガンナの出力のことでした。「彼は2位のときも勝ったときも、毎回それを言う。今日のコースでそれを言うのは難しいと思う——コーナーがあれだけあったんだから、平均パワーとノーマライズドパワーはかなり離れている、とだけ言っておくよ」
🔰 初心者向けメモ: 最高の出力が、最高のタイムにならないとき
ワットは、ペダルを踏む強さの単位です。45分間の平均ワットが高いほど強い——おおむねそうなのですが、コーナーだらけのコースでは話が変わります。
コーナーのたびに減速し、立ち上がりでまた加速する。この加速には一瞬だけ大きな力が要りますが、一瞬なので45分で平均すると数字にはあまり残りません。体はきついのに、平均ワットは上がらないわけです。そこで使われるのが「ノーマライズドパワー(標準化パワー)」で、強く踏んだ時間を重く数え直した値です。同じ選手の同じ45分でも、平坦な一本道ならこの2つはほぼ同じ、コーナーだらけなら大きく離れます。
エヴェネプールが「2つがかなり離れている」と言ったのは、そういう日に平均ワットの自己最高を持ち出しても、タイムの説明にはならないという意味です。数字は、それが出たコースとセットでないと読めません。