Beginner's Guide
チームスタッフ図鑑
中継に映るのは、ジャージを着た8人だけです。でもグランツールを走るチームは、その8人のために、その4倍以上の人を連れて3週間を移動しています。リザルトに一度も名前の出ない人たちの話です。
選手8人に、スタッフ34人
2026年のブエルタ・ア・エスパーニャが始まる前日、ベルギーのチーム、スダル・クイックステップが「今年のチーム」を職種ごとの人数で公開しました。チームにとって24回目のブエルタです。
走るのは8人。それ以外が34人。選手ひとりあたり4人以上が、同じ3週間を一緒に移動している計算になります。
| 職種 | 人数 |
|---|---|
| ソワニエ | 6 |
| メカニック | 4 |
| キッチンスタッフ | 4 |
| メディアスタッフ | 4 |
| スポーツディレクター | 3 |
| チームサポート | 3 |
| マネジメント | 3 |
| ドクター | 2 |
| パフォーマンススペシャリスト | 2 |
| 理学療法士 | 1 |
| 栄養士 | 1 |
| ロジスティクス | 1 |
いちばん多いのはソワニエの6人で、メカニックより2人多い。キッチンスタッフの4人は、メカニックと同じ人数です。食事は、自転車の整備と同じだけ人手のかかる仕事だということになります。写真や動画を撮るメディアスタッフも、同じく4人です。
※ 合計の34人はチームが書いた数字ではなく、上の内訳を足したものです。そしてこれはこのチームの、この大会の人数です。同じ内訳を公開している他のチームは見当たらないので、「ワールドチームはだいたい何人」とは言えません。
それぞれ、何をする人なのか
表に並んだ職種を、ひとつずつ。人数はチームによって違いますが、仕事の中身は変わりません。
ソワニエ
Soigneur
ボトルを作り、補給袋を渡し、荷物を運び、洗濯をして、夜は選手の脚を揉む。レース以外のほとんどを引き受ける職種です。日本の中継では「マッサー」と呼ばれることもあります。
メカニック
Mechanic
自転車の整備と、レース中の機材トラブルへの対応。ホテルの駐車場に工具を広げ、翌日ぶんの機材を毎晩仕上げます。
スポーツディレクター
Sport director
チームカーから無線で作戦を伝える監督。日本語では「監督」と呼ばれることが多く、レース中にいちばん選手の声を聞いている人でもあります。
チームシェフ
Chef
合宿でもレースでも、その土地でキッチンを立ち上げて回します。献立は選手ひとりひとりの栄養要件に合わせ、栄養士やパフォーマンススタッフと組んで組み立てます。
栄養士
Nutritionist
選手ごとに「何を、いつ、どれだけ食べるか」を設計する役目。作るのはシェフで、決めるのがこの人たちです。
チームドクター
Doctor
落車のけがの手当てと、3週間の体調管理。走行中のチームカーから手当てを始めることもあります。
理学療法士
Physiotherapist
けがや不調からの回復を、体の動かし方の面から支える医療系の専門職です。
パフォーマンススペシャリスト
Performance specialist
パワーや心拍のデータを読み、トレーニングとレースの組み立てを担当します。
メディアスタッフ
Media staff
写真、動画、SNS、記者対応。私たちがレース以外の場面を見られるのは、この人たちが撮って出しているからです。
ロジスティクス
Logistic staff
車両と機材と宿の手配。3週間、毎日ちがう街へ「チームまるごと」を動かし続ける仕事です。
ソワニエの一日——朝いちばんに起きて、夜いちばん遅くまで
ボトルを作り、補給袋を渡し、荷物を運び、洗濯をして、夜には選手の脚を揉む。この全部を引き受ける職種を、ヨーロッパのチームではソワニエと呼びます。日本の中継では「マッサー」と呼ばれることもあります。
EFエデュケーション・イージーポストには、日本出身のソワニエがいます。Takuya Sakamoto さん——2015年から自転車の世界で働き、2021年からこのチームにいる人です。(日本語表記を確認できる資料が見つからなかったので、出典の英字表記のままにしています)
日本で自転車の仕事をしていると言うと、返ってくるのは「競輪?」。ロードレースだと言い直すと、たいてい怪訝な顔をされる——記事はそんな話から始まります。
語られたグランツールの一日は、こういうものです。起きるのは朝7時ごろ。チームがホテルを出る2時間前から仕事が始まります。自分の朝食を済ませ、選手のボトルを作り、スタッフの昼食——たいていサンドイッチ——を用意し、選手のライスケーキを焼く。味は日替わりで、ココナッツの日もあればオレンジの日もあるそうです。
本人が回った2023年のジロで、チームのソワニエは6人でした。そのうち4人がレースを追いかけ、2人は先に次のホテルへ入って荷物を運び、洗濯をします。同じことの繰り返しにならないよう、この2つの役目は週替わりで入れ替わるそうです。
レースを追う側は、補給地点へ先回りします。場所を選ぶときのこだわりが面白い——わざと少し上りになっている所を探すのです。選手の速度が落ちるので、ミュゼットを渡しやすくなるから。
宿に戻ってからがマッサージです。ひとりが2人を担当し、1人あたり1時間。山岳ステージの後の脚は硬くて、こたえるといいます。シャワーを浴びて夕食——ステージを勝った日はワインを1〜2杯——、そして22時に就寝。翌朝また7時に起きます。
出典: Cyclist「The people behind a WorldTour team #3: The soigneur」(2024年3月25日) ↗
求人票から読むチームシェフ——キッチンごと連れて移動する
2026年8月、先ほどのスダル・クイックステップがシェフの求人を出しました。求人票というのは「その仕事が何をする仕事か」をいちばん具体的に書いた文書なので、読むとチームシェフの輪郭がはっきりします。
まず、シェフはパフォーマンススタッフの一員だと書かれています。栄養の理屈を、おいしい食事に翻訳する役目。献立は選手ひとりひとりの栄養要件に合わせ、トレーニングの負荷とレースの日程を見ながら毎日変えます。相談相手はスポーツ栄養士、パフォーマンスコーチ、そしてメディカルスタッフ。
仕事場は自チームの厨房ではありません。合宿でもレースでも、その場でキッチンを立ち上げて回すのがこの仕事です。在庫と買い出しとキッチンの段取りまで見て、アレルギーや好き嫌い、そして多国籍のチームなので食文化の違いにも合わせます。応募条件に「頻繁な移動」と自動車の免許が並ぶのは、そのためです。
求人の締めくくりが、このチームの考え方をよく言い表しています——「正しい一皿は、完璧なトレーニング1回と同じくらい大事だと思いますか?」
選手が走りながら何を食べているのかは補給食図鑑に書きました。あのライスケーキを炊いているのが、この人たちです。
大会の34人と、チームの72人
同じチームの公式サイトには、スタッフの名簿が部門ごとに並んでいます。ボード、マネジメント、スポーツディレクター、メディカル、食と栄養、メカニック、理学療法士、ソワニエ、ドライバー、オフィス、広報、そして育成チーム。ページの上には「選手52人/スタッフ72人/16の国籍/22の言語」というカウンタが出ています。
この72人と、ブエルタの34人は別の数です。名簿には育成チームの欄まであるので、72人はチームという組織が抱えている人数。ひとつのレースに連れていく人数とは違います。同じチームの話でも、数字の意味は場面ごとに変わります。
勝ったら、全員で分ける
ここまでの人たちの名前は、リザルトに一度も出てきません。それでもプロトンには、レースで得た賞金を勝った選手のものにせず、チームの選手全員とスタッフで分け合うという古くからの慣習があります。ソワニエもメカニックも、その分け前を受け取る側です。
この話はツール2026の第2休息日の観戦記で書きました。賞金ランキングとは、実はチーム全員の「分け前」の表でもあるのです。
なぜ8人でひとりを勝たせるのかはエースとアシスト、どのチームがグランツールに出られるのかはプロチーム図鑑へ。中継で飛び交う言葉は用語集にまとめてあります。