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Beginner's Guide

補給食図鑑

ロードレースは「走りながら食べるスポーツ」です。中継で選手が背中のポケットをまさぐっていたら、それは戦いの一部。プロの台所事情をのぞいてみましょう。

1日8,000kcal——食べるのも仕事

グランツールの選手は1日に5,000kcal以上、厳しい山岳ステージでは8,000kcal近くを消費します。普通の食事なら4〜5日分。ところが胃腸が一度に処理できる量には限界があるので、レース中は「少しずつ、絶え間なく」食べ続けるしかありません。

補給を怠るとどうなるか——体内の糖が尽きた瞬間、脚から一気に力が抜ける「ハンガーノック」に襲われます。視界がかすみ、平坦がまるで峠のように感じられる強烈な失速で、どんな名選手でも回避できません。だからチームは補給のタイミングを分単位で計画し、アシストがボトルを配達して回るのです。

ポケットの中身——何を食べているのか

ジャージの背中ポケットとミュゼットに詰まっている定番たち。

エナジージェル

糖をペースト状に濃縮した現代補給の主役。数十秒で摂れて消化も速いので、勝負どころの直前に多用されます。カフェイン入りは終盤の切り札。

ライスケーキ

チームシェフが炊いた米を固めた手作りの補給食。甘い味だけでなく、ベーコンや卵入りの塩味もあります。「本物の食べ物」はジェル漬けの胃腸と心の救いです。

ミニサンドイッチ

ジャムやハムを挟んだ小さなパニーニ。序盤のゆるやかな時間帯に、よく噛んで食べておく「固形物の貯金」です。

エナジーバー・グミ

ポケットに常備する定番。噛む余裕がある平坦区間はバー、余裕がなくなるほどジェルやグミへ——強度で食べ分けます。

スポーツドリンク

ボトルの中身はただの水とは限りません。糖と電解質を溶かした「飲む補給食」で、暑い日は1日に10本以上を飲み干します。

コーラ

終盤の伝統的なお楽しみ。糖とカフェインが即効で効くうえ、疲れ切った体に甘い炭酸が染みる——プロトン公認の「ご褒美」です。

ミュゼットの受け渡しは時速40kmの職人技

コース途中に設けられた補給ゾーンでは、チームスタッフが補給食の入った肩掛け袋——ミュゼット——を差し出して選手を待ちます。選手は走る速度をほとんど落とさず、腕を通して受け取り、中身をポケットへ移し替えて袋を捨てる。簡単そうに見えて、集団の中では接触・落車の火種になる緊張の瞬間です。

使い終わったミュゼットや空のボトルは、決められた回収区間や沿道の観客に向けて手放されます。沿道で拾ったボトルやミュゼットは、ファンにとって最高の記念品——沿道の観戦文化の一部になっています。

現代の補給は科学になった

かつて「1時間に60gの糖が吸収の限界」と言われていましたが、種類の違う糖(ブドウ糖と果糖)を混ぜると吸収ルートが分かれて上限が上がることがわかり、現代のトップ選手は1時間あたり90〜120gもの糖を計画的に摂ります。おにぎりに換算しておよそ2〜3個分を、毎時間、レースが終わるまで。

いまや各チームに栄養士が帯同し、ステージの距離と獲得標高から消費カロリーを予測して、選手ごとに「何km地点で何を食べるか」の補給計画を作ります。胃腸も鍛える時代——「食べるトレーニング」という言葉があるほどです。

ワインで走っていた時代

100年前のツール・ド・フランスでは、選手たちはワインやビールを飲みながら走っていました。当時はアルコールが疲労に効くと信じられていたのです。補給が足りなくなれば、通りがかりのカフェに集団で駆け込んで棚の飲み物を飲み干す「カフェ襲撃」も名物でした——請求書は後から主催者に回されたといいます。

ステーキやローストチキンをポケットに詰めて走った時代を経て、補給はジェルと計量スプーンの科学へ。おおらかな逸話の数々は、いまや語り草です。それでも「走りながら食べる」というこのスポーツの本質は、100年間まったく変わっていません。

ボトルを運ぶアシストの仕事はエースとアシスト、観戦中に出てくる言葉は用語集をどうぞ。