Beginner's Guide
エースとアシスト
ゴールで両手を上げるのはたった一人。でもロードレースは、個人競技の顔をした「チームスポーツ」です。なぜ一人では勝てないのか——その答えは、物理法則にあります。
なぜ一人では勝てないのか
時速40〜50kmで走る選手にとって、最大の敵はライバルではなく空気抵抗です。先頭で走ると全身に風を受けますが、誰かの後ろにぴったり付けば(ドラフティング)、使う力を3〜4割も節約できます。
つまり、単独で走る選手と、交代で風を受けながら進むチームでは、勝負になりません。どんなに強い選手でも、200km先のゴールまで一人で風と戦い続ければ、勝負どころで脚は残っていない——だからチームは「誰の脚を残すか」を決めて戦うのです。その脚を残してもらう一人がエース、自分の脚を差し出す仲間がアシストです。
エースは「選ばれた一人」
エースは固定ではありません。平坦ステージならスプリンター、山岳ステージならクライマー、3週間の総合順位を狙うならステージレーサー——その日のコースとチームの目標に合わせて「今日、脚を残すのは誰か」が決まります(タイプの違いは選手タイプ図鑑へ)。
エースの条件は強さだけではありません。仲間が8人分の仕事を託せるかどうか——勝てなかった日に「自分の脚が足りなかった」と言える選手のもとに、アシストは集まります。
アシストの仕事図鑑
リザルトにはまず残らない、けれどどれか一つが欠けても勝てない仕事たち。
風よけになる
エースの前を走り、空気抵抗を肩代わりする最も基本の仕事。エースは脚を温存したまま、勝負どころまで「運ばれて」いきます。
ボトルを運ぶ
チームカーまで下がり、ジャージの背中いっぱいにボトルを詰めて仲間に配達。アシストの代名詞「ドメスティーク(フランス語で召使い)」の語源となった、献身の象徴です。
列車を組んで発射する
ゴール前、スプリンターの前に一列に並んで速度を上げ、最後の一人が全力で牽いてからエースを「発射」します。発射台(リードアウト)は勝敗の半分を握る職人技。
山でペースを刻む
長い峠でエースの前を一定ペースで登り、ライバルのアタックを封じます。自分が千切れる寸前まで牽いて役目を終える、山岳番頭の仕事。
自分の自転車を差し出す
エースがパンクや機材トラブルに見舞われたら、自分の自転車や車輪をその場で譲ります。自分のレースはそこで終わっても、チームのレースは続きます。
逃げを見張る
危険な逃げ集団にあえて乗り込み、仲間のために牽くのを控えつつ展開を監視します。乗り遅れたときは集団の先頭で追走の風を受け続けます。