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グランツール図鑑

「グランツール」は、3週間・約21ステージで争う世界最大級のステージレースのこと。この名で呼ばれるのは世界にたった3つだけです。3つすべてで総合優勝した選手は歴代でも数えるほどしかいません。

ツール・ド・フランス

Tour de France

開催
毎年7月・3週間
初開催
1903
首位の証
マイヨ・ジョーヌ(黄)

通称: ラ・グランド・ブックル(大きな輪)

3週間かけてフランスを一周する、世界最大の自転車レース。沿道の観客は延べ1,000万人を超えるとも言われ、総合優勝は自転車選手にとって最高の栄誉です。アルプスとピレネー、2つの山脈での攻防が伝統的な山場。2026年大会はバルセロナで開幕しました。

ジロ・デ・イタリア

Giro d'Italia

開催
毎年5月・3週間
初開催
1909
首位の証
マリア・ローザ(ピンク)

通称: コルサ・ローザ(ピンクのレース)

初夏のイタリアを巡るグランツール。ドロミテ山塊の荒々しい山岳、ときに雪さえ舞う過酷な気象、そして情熱的なティフォージ(イタリアのファン)が名物です。3大ツールの中で最もドラマチックと評されることも多く、玄人好みの一戦。

ブエルタ・ア・エスパーニャ

Vuelta a España

開催
毎年8〜9月・3週間
初開催
1935
首位の証
マイヨ・ロホ(赤)

シーズン終盤に行われるスペイン一周。壁のような激坂の山頂フィニッシュが数多く設定され、クライマー天国と呼ばれます。ツールで悔しい思いをした選手の巻き返しや、若手スターの覚醒の舞台になることも多いレースです。

沿道の主役たち

グランツールの観戦は無料——数時間前から場所取りをした観客たちが、目の前を数秒で駆け抜ける選手に全力の声援を送ります。その言葉はお国柄そのもの。フランスでは「アレ! アレ!」(行け!)、イタリアでは「ヴァイ!」や「フォルツァ!」、スペインでは「ベンガ! ベンガ!」、バスク地方なら「アウパ!」。中継の音声に耳を澄ますと、いまプロトンがどこの国を走っているかが声援だけで分かります。

そしてファンは声だけでなく、道路そのものをキャンバスにします。レース前夜、コースの路面に推し選手の名前や巨大なメッセージをペンキで描くのは、グランツールの伝統的な応援文化。空撮の映像に映る白い文字は、その土地のファンからのラブレターです。

この「路面に描く」文化を、30年以上たったひとつのマークで続けている男がいます——。

路面に三叉槍のマークが現れたら、それは「この先に悪魔がいる」の合図。数km先の山道で、真っ赤な悪魔が三叉槍を振り回して飛び跳ねています。ドイツ人発明家のディディ・ゼンフト——通称「悪魔おじさん(エル・ディアブロ)」。1993年から毎年ツールの沿道に立ち続けている、世界でいちばん有名な観客です(欠席は病に倒れた2012年のただ一度だけ)。

きっかけは、残り1kmを示す赤い三角旗をドイツのテレビ実況が「悪魔の布」と呼んでいたこと。「それなら本物の悪魔が待っていよう」というわけです。本業の発明家としても、世界最大の乗れる自転車をはじめ数々の記録を持つ本物の奇才です。

悪魔おじさんは別格ですが、沿道には他にも名物がいます。アメリカの動物の角で作った兜をかぶって現れる「アントラーマン」ことドーレ・ホルテ。そしてアルプ・デュエズの7番コーナー、通称「ダッチコーナー」——かつて教会のオランダ人神父が同胞の勝利のたびに鐘を鳴らしたことから、オレンジ色に染まる世界一の路上パーティーになりました(写真はアルプ・デュエズの沿道。山の斜面がまるごと観客席になります)。沿道の観客もまた、100年かけて育ったツールの文化なのです。

レースの前を走る、もうひとつの主役——キャラバン隊

中継で沿道の観客がかぶっている水玉模様のキャップや、振り回している巨大な手のグッズ。あれは売店で買ったものではなく、選手たちが来る1〜2時間前に同じコースを走る「キャラバン隊(宣伝キャラバン)」が配ったものです。スポンサー各社が思い思いに飾り付けた100台超の車列が音楽とともにパレードし、キャップ、キーホルダー、お菓子、洗剤のサンプルまで、ツール・ド・フランスでは毎年1,000万個以上のグッズが沿道に投げ込まれます。

始まりは1930年のツール。主催者が出場チームの費用を賄うためにスポンサーの車列をレースに随行させたのが起源で、いまや「キャラバンを見るために沿道に来る」ファミリー層も多い、レースと不可分のお祭りです。山岳賞の水玉ジャージと同じ柄のキャップは特に人気で、放送に映る観客席が水玉に染まっている日は、それだけ配布が盛況だった証拠。ジロやブエルタにも同様のキャラバンがあり、規模はツールが群を抜いて最大です。

現地観戦の作法はシンプル——グッズは拾うもの・受け取るものであって、車列に近づいて手を伸ばすのは危険なので厳禁。子どもと一緒なら、キャラバン通過の30分前には場所を決めておくのがコツです。

ワンデーレースの最高峰はモニュメント図、国の代表として走る一週間は世界選手権図へ。レース用語は用語をどうぞ。

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